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ワトソン一家に天使がやってくるとき |
クリストファー・ポール・カーティス著 唐沢則幸訳
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くもん出版 |
読書の醍醐味はおもしろくて心に残る作品に出会えたときにある。しかし夢中になれる作品は数あるけれど両方を満たす作品となるとむずかしい。昨年「バドの扉がひらくとき」を読んで幸せな出会いのよろこびを噛みしめていたら、機会あって同じ著者の前作(デビュー作にあたる)「ワトソン一家に天使がやってくるとき」を紹介された。またしても幸せな出会いがあったのである。
本書の主人公はアフリカ系アメリカ人のワトソン一家の人々。近所でも評判の〈きてれつ〉な一家は、語り手の少年ケニー、不良の兄のバイロン、妹のジョエッタと両親の五人家族。ある年、ますます悪さの程がひどくなるバイロンを、バーミングハムに住む祖母にあずけるために一家で旅行することになった。一家が南部のバーミングハムに向かった1963年は、おりしも公民権運動がもっとも盛んな時期。とくにアフリカ系アメリカ人への差別が過激だったバーミングハムで、一家は白人による教会爆破事件という、おそろしい事件に巻き込まれる。
おもい題材をあつかっているが、常に希望を忘れないでいられるのは、どんなときもユーモアを忘れないワトソン一家の面々のおかげだろう。一家がバーミングハムに行くきっかけとなったバイロンのしでかすバラエティにとんだ悪さは、もはや喝采ものだし、それに対してくだされる両親のお仕置きも半端じゃなくておかしい。そして、普段いじめられていても、いざというときは兄をかばうケニーと、けなげなジョエッタの姿に、家族っていいなあと、しみじみ思う。ワトソン一家のすてきな面々と、作品をつらぬいている〈家族の絆〉があるから、なにがあっても大丈夫、と読み手は安心していられるのだ。
本書の原題は"The Watsons go Birmingham−1963"だけれど、私は日本語版のタイトル「ワトソン一家に天使がやってくるとき」がとても好きだし、内容にもぴったりあっていると思う。「天使がやってくるとき」がいったいどんなときなのか…その答えは本書の中にある。(文:京) |
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