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能楽への招待

梅若猶彦/著
岩波書店
(岩波新書)
能楽入門書。入門書には二種類あると思う。ひとつは軽く読めてテーマの概要を要領よく知らせてくれるもの。もうひとつは読みやすくは書いてあるが、入門であると同時に著者がテーマの核心と考えていることをきっぱりと提示してくれるもの。この本は明らかに後者で、伝統芸能の何たるかを解説するとともに、生身の能役者がぶつかるいろいろな問題を、伝統の教えに従うのではなく、自分の頭で考えて問題解決の道筋を見つけ出す過程をごまかさずに書いている。
芸の道には常人の理解をこえた名人やら達人がいたし今もいることは間違いないだろうが、この本はひとまずそちらの方向へは行かずに、普通の思考過程でたどれることを書いている。能がたいへん身近なものに思えてきて、久しく見ていない舞台を見たくなった。その意味で、巻末に付録のようについているNHK プロデューサーの書いた、著者の取材エッセーは面白い。稽古中の著者の心臓の働きを観察したもので、その昔、禅宗の高僧の座禅中の医学的調査を思い出させる。
作者は能役者にしてロンドン大学に留学、いまは大学教授も務めるという変わった経歴の持ち主だ。筆致はたんたんとしているが、伝統芸能の世界に起こるかもしれない新たな波動を予感させるような書きぶりである。この本の目次は次の通り。
一.能の空間 二.内面への入り口 三.能楽の歴史 四.表現体としての身体 五.秘伝を伝える 六、無への探求(文:宮)