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長期不況論 −信頼の崩壊から再生へ− |
松原隆一郎/著 |
日本放送出版協会
(NHKブックス) |
バブル崩壊後の不況は長い。10年の空白とか10年不況とか、いつ果てるとも知れぬ不景気に疲れ果て困惑している。この間無数の書物が書かれ、論文が生み出された。終わりの見えない不況のため、専門家の主張は当然のことながら実にまちまちで、門外漢の不安ととまどいはますます深くなる。
この松原さんの本は初めに評価を下してしまえば、異色ある名著である。理由の第一は、記述が理論的で、思いつきや都合の良い話の寄せ集めではないこと。第二に、それにも関わらず本文では具体的なデータや観察が沢山使われていて、決して抽象的議論では無いこと。第三に記述が経済学の範囲内にとどまらないで、隣接の社会科学や思想史にまで及び、今日の経済問題の意味を明らかにしていること。理論指向と幅広さからK.ボールディングを連想した。
本書のテーマは一言で言えばいわゆる「構造改革」の理論的批判である。今日、小泉内閣は、構造改革の名のもとに郵政や道路の民営化を主張しているが、本書は具体的政策を背後で支えている経済理論を克明に分析し、批判している。新古典派の理論の非現実的仮説がやり玉にあがっている。土地、労働、貨幣といった経済学でいう生産要素を「市場化」する事が不可能な事や、不況の大きな要因として需要がふえないこと、そしてそれにはちゃんとした理由があることなどが明らかにされている。これからの経済社会を考えるときにきわめて重要な要素として「消費」に焦点をあてて、本書をしめくくっている。
今日の日本経済やグローバル資本主義と言われているものを考えるときに、とても有益な本である。(文:宮) |
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