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小沢昭一的流行歌・昭和のこころ

小沢昭一 大倉徹也/著
新潮社
(新潮文庫)
小沢昭一が大好きな流行歌を自分で歌い(ラジオ番組が元にある)全部で11人の歌手について胸の思いを語りに語る。流行歌、歌謡曲といえば古賀メロディなどと代名詞のごとく言うが、小沢昭一はいわゆる古賀メロディはあまり好きではない。古賀政男の曲でも明るく楽しい「東京ラプソディ」や「丘をこえて」が好きなのだ。それに藤山一郎のほがらかな歌声。元気を出そうと思ったときは藤山一郎の歌を歌う。「東京ラプソディ」と並んで、古関裕而の「夢淡き東京」を愛唱歌としてあげている。
この本は歌詞をきちっと紹介しているのがミソで、曲を知らない読者でも歌詞を読み、11人の歌手の写真を眺め、小沢昭一の軟派に傾いた軽妙と純情をつき混ぜた語り口を目にしながら、昭和前期の流行歌がどんなもので、歌った人々がどんな人生を生きたのかがわかる。
小沢昭一がものごころついた昭和初期から戦後もせいぜい25,6年までの20年から25年ぐらいの間の流行歌、それも小沢昭一好みの11人の歌がとりあげられている。子供の頃の歌の記憶が何十年後も、生き生きと胸に迫ってくる様を、歌をかえ人をかえ繰り返し語り、歌う。
登場する11人の歌手と最初に取り上げる歌は次の通り。
 藤山一郎「東京ラプソディ」
 美ち奴「ああそれなのに」
 楠木繁夫「緑の地平線」
 松平晃「花言葉の唄」
 杉狂児「うちの女房にゃ髭がある」
 二村定一「私の青空」
 小唄勝太郎「島の娘」
 灰田勝彦「野球小僧」
 霧島昇、松原操「旅の夜風」
 ディック・ミネ「ダイナ」
 美空ひばり「ラ・あさくさ」
こうしてみると明るく楽しい曲から、芸者出身の歌手が歌う日本調から、ナンセンスソング、ジャズ調など、実に変化に富むが、小節を回す陰々滅々の演歌調はない。しっとりとした情感がこもってはいるが、さらりと流れる曲調を好んでいる。それから気持を込めて歌う気持ちを作り上げるために、小沢昭一は「まずイントロから」と言って「ジャンジャカジャンジャン……」と前奏をしっかり声にしている。
昭和前半期の流行歌としては選択が小沢昭一の好みに偏っているから、抜け落ちているヒット曲、大歌手もあるが、読み出すと曲を聴いてみたくなる楽しい本です。(文:宮)