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夜を賭けて |
梁石日(ヤン・ソギル) |
幻冬舎
(文庫幻冬舎) |
昭和30年代初頭、戦後の生々しい傷跡が残る大阪。かつてアジア最大といわれた兵器工場跡地であり、国有地でもある土地に忍び込み、鉄屑を盗み出して大金を稼ぐ在日朝鮮人たち。血気盛んな若者から年寄りまで、戦後の混沌とした社会の中で、貧困と差別の壁にぶつかりながらもたくましく生きる人々の姿が描かれる。前半、第一部では、部落の人間模様を柱に鉄屑を盗み出す部落の者たちとそれを追いつめていく警察との激しい攻防劇が展開する。
攻防戦の末、主人公の一人金義夫は捕まり、長崎にある大村収容所に収監され、物語は第二部に入る。この騒ぎの一方で、国内では、在日朝鮮人の北朝鮮への帰国運動が盛んになっていく。部落からも帰国する者、日本に残る者とで別れていく。時代が否応なく流れようとしている。
第二部では、収容所に収監された義夫と、彼を追いかけ大阪から長崎に単身移り住み、釈放のために奔放する同胞の初子の純愛を軸に物語は展開していく。日本のアウシュビッツと呼ばれ、刑務所としてではなく朝鮮への強制送還のために多くの在日や難民を収容していた大村収容所の実態は社会の醜悪さを際立たせる。底辺の状況の中で心を通わせていく義夫と初子の姿は、人間の強さを印象づける。
終盤、収容所内で凄惨な体験をしながらも、無事に釈放となった義夫と初子が部落に戻るにいたっては、すっかり物語に引き込まれた読者として身内のように安堵する。部落の人々も差別に打ち勝ち戻ってきた二人をあたたかく迎える。しかし、5年の歳月が流れて戻ってきた大阪は、部落を含め、すっかり様変わりし、熱い戦いを繰り広げた兵器工場跡地も公園に姿を変え始めていた。
ラストは現代の大阪。公園で再会をはたす主人公たちが昔を思い起こしながら、今なお続く在日朝鮮人と社会の問題に心を曇らせる。物語はここで終わるものの、投げかけられた問題は現実でも解決することなく、また新たな形として今日に続いている。
自ら在日朝鮮人であり、辛酸をなめて生きてきた著者の心底に潜む社会への憤り、生きることへの執着はそのまま登場人物に、物語に投影されている。登場人物はみながむしゃらに生き、どんなに虐げられても困難に立ち向かう。人としての当たり前の姿。生きる力。暗澹としたものを含みながらも、登場人物を通じて放たれる力強さ、痛快さに強く引き込まれる。
(文:かわら) |
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