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スキな人キライな奴

小島直記/著
新潮社
(新潮文庫)
徳富蘇峰と三宅雪嶺を並べて、小島直記は「『雪嶺』よし、『蘇峰』好まず、である。両文人を別(わ)ける座標はただ一つ、『権力』にどう対処したか、筆(ペン)の権威を権力のうえにおいたかどうかである。」と、本書冒頭で書いている。薄い文庫本だが37章にわたり明治以降の著名人数十人をとりあげている。スキ、キライはもちろん各人の言動を鋭く批判し、根拠を明らかにしている。小島直記は伝記の達人といわれ、作品のいくつかは新潮文庫にも収められている。
本書で小島さんが短い文章で描き出すエピソードから、人物の断面があざやかに浮かび上がる。「人は何故威張るか 川田小一郎の場合」はその一例で、高橋是清のために働いた川田小一郎を描き、高橋是清をも評価する。真偽のほどはまた別であるが、ここには伝記を読む楽しみがある。
書名から当然のことだが人物はしばしば並べて論じられている。伊藤博文と大隈重信、リシュリューと大久保利通、木戸孝允と伊藤博文、小泉三申と高橋是清など。
しかし、とりあげられた人々が学純にスキとキライに断定、分類されているわけでもないのが面白い。簡単に割り切れないのが生身の人間だということだろう。スキ、キライでなく、人間短評として賞味するに足る好著である。(文:宮)