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東大落城 安田講堂攻防七十二時間

佐々淳行/著
文藝春秋
(文春文庫)
1960年代は、ケネディ大統領就任のとき、黄金の60年代と呼ばれた。中国は文化大革命が国内を動乱の渦に巻き込んでいた。日本は経済の高度成長時代である。それからベトナム戦争があり、学生反乱があった。フランスの5月革命、アメリカの学生たちの反乱はもちろん映画にもなった(いちご白書)。日本では全国各地で大学紛争が続発した。その代表格が日大と東大で、本書は東大安田講堂をめぐる攻防を記録したものである。
あれだけ激しい衝突だから、アメリカやその他の国であれば、銃が使用されて多くの死傷者が出たにちがいない。しかし、学生たちが使用した武器(武器などといえる代物ではないが、一応そう言っておく)は、歩道の敷石をはがして使った投石用の石、角材、鉄パイプ位である。一部分薬品が使われているが、使う側も抑制していた気配である。一方防ぐ側はと言えば、楯、大型の槌、消防用のホースなど。著者が言うようにまるで戦国時代に戻ってしまったみたいである。
原始的な道具同士のぶつかりあいでも、熱してくればいのちにかかわるような状況が出てくる。外国の記者が「なぜ銃を使わないのか」と叫んだというが、無差別無頓着に行動する学生に対して双方に、一人の死者も出さないという方針の下に警察側の抑制のきいた行動は評価されるべきであろう。何しろ安田講堂の攻防戦は、その激しさにおいて「いちご白書」に描かれた衝突の比ではないのだから。
著者は当時警視庁警備課長の職にあった。当事者の記録だから、警察組織のメカニズムに否応なく触れざるを得ない。また危機的状況の中での問題解決に、平時とは異なるリーダーシップも必要であった。当時の秦野警視総監をはじめ、警察側の関係者、大学側の当事者など、今になってみると鮮やかに描き出されていると感じた。(文:宮)