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日本経済 生か死かの選択

リチャード・クー著
徳間書店
2002年、日本経済はかつてない危機的状況におちいると言われている。日本経済の停滞、不景気はすでに10年以上続いているが、なお好転するきざしはない。この間、多くのエコノミストが理論、政策論の両面からさまざまな議論を展開してきた。その数は無数といってよい。しかし、いまだ不景気の真只中にあるから、どの主張が正しいのか判断することは困難である。経済がはっきり復調するまでは結論は出ない。したがって、今日もさかんに議論がなされている。その中のほんの一部にしか目を通すことができないが、本書はわかりやすさという点で際立っている。
著者のリチャード・クーはアメリカ連銀勤務して、南米の経済危機処理を仕事として経験し、今は野村総研にあって日本経済論を活発に展開しているすぐれたエコノミストである。9月11日の同時多発テロのときニューヨークに滞在していたとか、写真集の「幻のドイツ空軍」の著者であるとか、個人的に興味のある人でもあるがいまはそれはおく。
著者はテレビにもよく顔を見せるし、新聞・雑誌も書く。我々になじみの深いエコノミストである。しかしこれらのものは断片的にならざるをえず、起承転結を備えた本の力は大きい。本書の主張の要点は単純である。日本経済はバブル経済の崩壊によって1929年のアメリカの大恐慌に匹敵する資産価格の暴落に直面した。これはもちろん瞬時にしてそうなったわけではないが、この10年の動きはまさに大恐慌のそれに極めて類似している。資産価格の暴落によって、個別企業は結果として膨大な過剰債務をかかえこむことになった。本書によれば株と地価だけで1300兆円の下落があったという。個別企業は過剰債務の状態から一刻も早く脱出すべく必死の努力をする。社員を減らし、経費を節減し、新規投資を控え、ひたすら借金の返済にはげむ。これは個別企業にとっては当然の行脚である。
しかし個別企業にとって当然の行動が日本経済の全体にとっては、ますます景気を冷えこませる大きな要因になっている。この10年は「失われた10年」とも言われているが、日本経済はこの間成長をやめ停滞した。しかし停滞したが縮小したわけではない。著者に言わせれば、よくぞ停滞で済んだということである。
大恐慌のアメリカではGDPが半減したそうである。日本は半減どころか停滞で済んだが、その原因はあの評判の悪い国債発行による財政出動である。経済を立ち直らせるためにこの10年間で140兆円の財政支出であったが、著者にいわせれば、1300兆円の資産価格の暴落を140兆円で支え、何とかGDPを現状維持にとどまらせた。
以上が現在日本経済が陥っている状況についての著者の認識である。経済の論理はある意味ではきわめて単純である。余分なものを取り去って、つきつめれば上記のごとき現状認識ができ、そこから次に打つべきさまざまな方策も見えてくる、というわけである。本書はとるべき政策についてもいろいろ提示しているが、最も強く印象づけられたのは日本経済についての上記の認識である。
ちなみに本書の目次は下記の通りである。(文:宮)

目次
第1章 日本経済が陥っているバランスシート不況
第2章 財政の下支えなしにバランスシート不況は克服できない
第3章 金融政策は今の日本には効かない
第4章 不良債権処理は急いではいけない
第5章 小泉政権は本当の改革を実行できるか
第6章 日本経済が本当にチャレンジすべきは何か
第7章 消費と貯蓄のパラダイムをどうか変えるべきか