「この本おもしろかったよ!」
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対岸の家事 シンボー主婦やってみた

南伸坊/著
新潮社
(新潮OH!文庫)
男の人が家事をする。これは最近では違和感がなくなってきた。特に若い世代では夫婦共に働くという家庭も増えていることが理由に挙げられるのだろうか。我が家でも食器洗いは夫の仕事だし、ゴミ捨てだってしてもらうし、米を研いで炊くとか、たまにはアイロンがけも頼んだりする。まあ、自分から率先してというわけにはいかないのが悩みの種だが、それは、もしかしたら強制労働のように役目だからとか、分担だからねと言い続けた私の責任かもしれないと最近反省している。

「対岸の家事」は、日本経済新聞社の、新聞連載のために伸坊さんが書いたコラムをまとめたものだそうだ。私は結婚当初、ご飯を作ったり、掃除をしたり、アイロンをかけたり、そういったことを楽しくやっていた。最近じゃあ「めんどうだな、誰かやってくれないかな」ときたものだ。

私も当初は今までやったことのない料理にチャレンジする、部屋のレイアウトを工夫する。トイレの掃除にしても、風呂の掃除にしても楽しかった。人に喜んでもらえるからということだけでなく、窓ガラスを拭いたら部屋がもっと明るくなったり、風呂のめじを歯ブラシで隅から隅まで磨いたら白くきれいになったとか、なにかしら工夫して成果があがると自分がなんだか嬉しかった。

さて、この伸坊さんだが、それまでは全然家事をしない人だった。なぜいまさら家事かというと、家事についてコラムを書くというので、体験していないことを書くのは…ってことでやってみないわけにはいかないだろうということになったらしい。コラムのためとはいえいろいろと体験していく姿がとてもいいのだ。妻の文子さんとの関係なんかがにじみ出ていたりして、とてもいい感じだ。料理、掃除、洗濯、アイロンがけの他になんと看病とかベットメイキング、花を買ったり飾ったりと、まるで本当に家が息をしているような、幅広い家事について書かれているから、飽きずに楽しませてもらった感じだ。

食いしん坊の私はまず断然食べ物に関するコラムに目がいった。ピザ、麻婆豆腐、桜もち、餃子、スコーン、卵焼き、自家製ドーナツ、お弁当、おいなりさん、などを伸坊さんが作るのだ。美味しいものを作りたいという伸坊さんは願う。料理は成功する時もあれば、失敗することもあるんだけれど、それまでの課程が目に浮かぶ。おいなりさんの稲荷部分の味付けがどうしても加減難しくて気に入ったものができない。そのこだわったところが妙に気になって、急においなりさんを作りたくなったりもした。私もこうやって料理を楽しんでたことがあったなあとよみがえってきた。今だってたまには楽しいなと楽しんでいる自分を発見するのだが、そのひとつひとつに感動することが少なくなって、なんだか機械的に物事を済ましているみたいになったいた。

本当は料理をしてても、アイロンがけをしてても、すごくその課程が楽しいはずなのだ。温かくて美味しいご飯やしわくちゃだった洗濯物がまっすぐで気持ちよく積み重ねられていく様は見ていても気持ちの良いものだ。結果になってあらわれる。上手くいけば、家族も、私も嬉しい。そういう気持ちになれることが楽しかったりするのだ。そうなるだけでみんなしあわせになれるから不思議だ。

あえて、男は家事が趣味だと気持ち悪がられるのか、大手を振って「オレ家事大好きなんだ」みたいに言う男は男らしくないと言う世間の言葉を気にしてそう言えない人が、数多くいるということも真実だ。私自身も夫に家事をやってもらいたいと思いながらも、どこかで、全て完璧にこなしてしまう夫だったら嫌だなと思ったりしている。何もしない主婦は駄目な主婦とおもわれたくない私がどこかに存在しているのだ。本当は家で花を飾る男がいてもいいし、料理が好きで家での食事はすべてオレが作っているという男がいてもいいし、「家事がだめでも外で仕事はばっちりよん」みたいな女の人がいてもいいのだ。得意なものを得意な人がやるのも良いし、嫌いだと思っていたことでも楽しみながらの方法を見つけて好きになっていく方法もあるんだと思う。

伸坊さんとその妻である文子さんが楽しそうに家事をする姿から、やってもらうとかやらせるとかいうことばがなくて、「やってみる?」という提案となんだか手はあまり出さないまでも、我慢強い母親のような貫禄が文子さんからにじみ出ているのを感じた。もちろんコラムの為もあったからだと思うが、なんとなく見守っている妻の姿にどこか自分でやってみることの楽しさみたいなものを見い出したんだろうなと思うのだ。家事に嫌気のさしてきた女の人や、妻のいる男の人、これから結婚する人が読んだら家事を楽しんでみようかなと思う人もいるかもしれない。ちなみに、私も家事を楽しんでみるのもいいかもと密かに思い始めているのである。(文:やぎ)