「この本おもしろかったよ!」
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少々おむづかりのご様子

少々おむづかりのご様子

竹中直人/著
角川書店
人は気持ち悪いと言ってみたり、変な役者というけれど、私はこの人がずっと好きでアイドルを追うかのごとく、テレビや映画でその顔を見ると釘付けになっていた。ひとくせもふたくせもあり、あくの強い役者だが、インタビューなどでかいま見せる、物づくりへの真摯な姿勢に惹かれる。
映画が好きで、人が好きで、なにより自分の感性に素直な人である。そんな素直さと、ときに度が過ぎて狂気とあほさ加減が紙一重な純粋さが、このエッセイ集を読むと伝わってくる。90年代初旬にキネマ旬報などの雑誌で掲載されたエッセイを寄せ集めたものだが、映画評もあれば、日常生活の話や、恋の遍歴、映画制作の裏話など、盛りだくさん。
美大を出てから、お笑い畑に飛び込んで、そこから映画、テレビ、舞台と表現の場を広げて行くが、その間に出会う人脈が面白い。ロマンポルノの石井隆監督から、今は亡き五社英雄監督、そして俳優の松田優作など。今日の俳優竹中直人が出来上がる過程にこんな人たちとの交流があったのかと、数々のエピソードが面白く、映画好きには興味深い内容である。
でも、一番印象に残るのは、著者の素の顔が見られる、小さな娘との交流だ。雨の日に娘をつれて公園に行くと、雨にぬれる花やブランコを見て、娘が「さむいさむいっていってるのかナァ」ときく。「寒いのかもしれないね」ととりとめのない会話を繰り返す。水たまりにとびこむ娘と、それに応えるようにあがる水しぶきと、そんな光景を眺めながらこの雨の時間に、小さな娘は、においや空気を心に感じているだろうかと問う。「すべての物には理屈はなく、“感じる”ことの大切さを、この都会で生活していく中、どうやって娘に伝えていこう」と自問する。たぶんこの思いは、そのまま竹中直人の仕事として消化されていっているのだろう。
一度読むとしばらくは本棚の肥やしになっているが、一年に一回は読み返す時期がくる。映画や読書に食指が動く秋から冬にかけて。読み返して、改めて竹中直人の表現者として、人としてのおもしろさにはまる、そんな本。(文:かわら)