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花の町 |
田村隆一/詩
荒木経惟/写真 |
河出書房新社 |
田村隆一さんの詩を読むと、詩人は嘘つきだなあ、と思う。詩が嘘くさいからではない。一つ一つを取り上げてみればなんでもないような言葉のつらなりが、よそ見をしていたわけでもないのに、いつの間にかストンと真ん中に落ちている。この不思議な感覚を表現する言葉が見つからなくて、騙されたような気持ちになるから、「嘘つき」と呼ぶのだ。もちろん、詩の言葉は選び抜かれた言葉であり、一つの言葉の足もとには、削り落とされた数限りない言葉が累々と横たわっている、はずだ。この人の詩は、そうした舞台ウラを感じさせず、ひょうひょうと嘘をついている。
そして、もう一人、媒体を写真に置き換えれば、アラーキーという天才的な「嘘つき」がいる。この二人のデュオである「花の町」。もはや二度と再現することができないデュオだから、「花の町」は「幻の町」でもあるのだ。
この本は、下手な嘘が飛び交っている世の中がいやになったとき開くのに調度いい。可憐な花の中に妖艶な裸の美女が紛れ込む、どこかノスタルジックでエロティックな「花の町」は、幻の路地の向こうにある。人も花も本来、エロティックな存在だということを、この町は思い出させてくれるだろう。(文:京) |
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