「この本おもしろかったよ!」
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日本百名山

日本百名山

深田久弥/著
新潮社
(新潮文庫)
暑さも落ち着き、休みになると、ザックを担いでほいほいと山に野に出かけたくなる季節となった。さて、そんな道行きに適した本をご紹介。登山家深田久弥が山国日本を、全国歩いて、調べて、綴った、魅力ある百座が並ぶ。山をはじめた頃に、「これを読むと山への見解が深まるよ」と薦められた。山の歴史、名前の由来など、著者の視点は、表には見えない、もう一つの山の姿に迫る。

 名山の基準は、その歴史と、風格、そして高さとし、日本アルプスをはじめとする雄大かつ千メートル以上の高い山の名が連なるが、なかには本来ならその基準から外れるはずの山も著者は名山に選んでいる。筑波山(876メートル)を選んだ著者の視点がいい。

 高さ千メートルにも満たない筑波山。この山を選んだ理由は「歴史の古さ」としている。昔々、富士山の神に宿泊を断られた神様が、筑波山にたどりつき、宿を求めるとあたたかく迎えられた。富士山には「夏冬問わず、雪と霜に閉じこめてやる」と悪態をついたが、筑波山には「日月共に幸あれ。代々、人々が集い、捧げ物をし、遊楽の窮まることをを知らないだろう」と言葉を残した。事実、古くから筑波山は四季を問わず、人々の遊楽、集いの場として人気があり、この神話のとおりとなった。この記述は、「常陸風土記」にあり、「万葉集」でも吟詠の対象になっている。高さがなくても、この山にはこんなに深い歴史と逸話があるんだよと、著者の山に対するあたたかい視線が伝わってくる。

 一部を除いて、大衆に好まれそうな山を選んでいるあたり、この本がながく、多くの人に読みつがれる原因だろうが、これを読んでその足跡をたどるのもいいし、自分で新たな名山を探すのもおもしろい。山を知るきっかけにもなりそうな内容である。
ニッポン百名山よじ登り さて、深田の「日本百名山」に感化された外国人の著書「ニッポン百名山よじ登り」(クレイグ・マクラクラン著/橋本恵訳/小学館文庫)も併せて紹介。こちらは、百名山を百日で登った外国人のユーモアエッセイ。「百名山を百日で」という偉業(自称アホな企画)を成し遂げるためにニュージーランドから来日し、実際78日で登りきった著者と相棒。山のことよりも旅して目的を達成しようとする心意気がストレートに伝わってくる内容で、おもしろく読めておすすめ。(文:かわら)