|
社会的共通資本 |
宇沢弘文/著 |
岩波書店
(岩波新書) |
「社会的共通資本」という書名は、いまどきの本のタイトルとしてはいかにも小むずかしげな感じを与えるが、この本の内容は、この書名よりほかにあらわしようがないとも思う。なにしろ、1979年刊の「自動車の社会的費用」以来、著者の姿勢は一貫しているのだから。「自動車の社会的費用」はずいぶん評判になったはずだが、考えてみれば、あの本の主張はその後の経済政策にほとんど取り入れられないままに過ぎ、今日のさまざまな問題を引き起こしているとも言えるのではないか。その意味では、宇沢さんの立場は少数派でしかないのだろう。
この本は、混迷をきわめる現代経済を一定の立場から、きわめて明解に整理してくれている。アダム・スミス以来の近代経済学について、ケインズ経済学、新古典派やマネタリズムの立場などを、それぞれの経済学が出てきた当時の経済事情と関連づけながら、簡潔に解説・位置づけている。いまわれわれの眠前にくり広げられている日本の不景気をどう理解したらよいのかについても、この本は示唆する所大である。
それでは社会的共通資本とは何か。それは、一つの国あるいは特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会装置を意味する。具体的には三つのグループにわけて考えることができる。1.自然環境、2.社会的インフラストラクチャー、3.制度資本。
自然環境は、大気、森林、河川、水、土壌など。社会的インフラストラクチャーは道路、交通機関、上下水道、電気、ガスなど。制度資本は教育、医療、司法、金融制度など。社会的共通資本という概念は、100年以上前のソースタイン・ヴェブレンが提起した制度主義の経済思想を根拠にしている。(文:宮) |
|