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 中国文明の歴史 9清帝国の繁栄

中国文明の歴史 9
 清帝国の繁栄

宮崎市定/責任編集
中央公論新社
(中公文庫)
清帝国は江戸幕府に50年近く遅れて成立し、江戸幕府倒壊に同じく50年ほど遅れて、辛亥改革により倒された。中国最後の王朝だが、支配者は中国人でなく満州民族である。異民族が中国を支配することは幾度もあるが、清はジンギスカンを祖とする元のように短期間で亡びることなく、康熙、乾隆と並び称される盛時を持った。今日の中国の版図が清時代に形成されたものであることなど中国が関わっている現代の領土紛争を考えるうえでも、重要な事柄であろう。

本書はもともと人物往来社の『東洋の歴史』シリーズの第9巻(1967年刊)である。出版当時は、「日本の歴史」「世界の歴史」といった歴史シリーズが次々と出版されていた。「小説より面白い世界の歴史」と銘打って発刊された中央公論社の『世界の歴史』(全16巻)はベストセラーになった。『東洋の歴史』も、こういう状況のなかで出版された。

小説ではないが歴史上の人物、たとえば康煕帝や乾隆帝がわれわれと同じ欲望、意識を持った人間として描かれ、宮崎氏が、隣人と評するが如くに、誉め、あるいは批判しているのが面白い。

このシリーズの特色らしいが、日本との関係や、さらに世界史との関係にしばしば筆が及び、これがまたとても面白い。たとえば、日本、中国、ヨーロッパの文化の影響関係が、絵画や焼き物を通して解説されている。

考証学についての話はこれまでぼんやりしていた知識をはっきりさせてくれるものだった。考証学については内藤湖南のそれと対比した「解説」も良かった。
清帝国の文明と社会を知る上で、読みやすくバランスのとれた歴史書である。(文:宮)