「この本おもしろかったよ!」
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 こねこのぴっち

こねこのぴっち

ハンス・フィッシャー/絵・文 石井桃子/訳
岩波書店
懐かしい本に出会った。どこかで見た絵だなと思い、頁をめくると、自由気ままに踊る線画と色に、幼い頃読んだハンス・フィッシャーの『ブレーメンのおんがくたい』を思い出した。

『ブレーメン』は、フィッシャーの処女作で、幼い娘のために描いた作品だが、誰もが知るグリム童話の世界を優しい解釈と愉快な画風で展開していく作品世界に惹かれて、何度も何度も頁をめくった記憶がある。愉快な画風というのは、自由自在に筆が走るようなタッチにあるのだが、何よりも人と動物の表情と仕草が豊かなところに描いてる作者の楽しさが伝わってくる。小道具もフィッシャー独特のデザインが施されており、パリのノミ市なんかに行けばきっとあるのじゃないかと思わせる。窓の左右の開き戸に付いたハートのマークは、『ブレーメン』にも登場し、ぴっちの飼い主リゼットおばあさんの家にもついていた。話の筋とは関係ないところにもフィッシャーのセンスは、きちんと働き、すてきな世界を創りあげている。しかし、かわいい、素敵に留まらず、物語世界を表現することも怠らない。

夜の場面、月明かりに浮かび上がるオオカミやフクロウといった闇の動物たちの表情は子どもの目には毒々しい。だが毒な部分もあるから、展開にメリハリが効き、作品に引き込まれるのだろう。

さて、こねこのぴっちは、ほかの動物になることに憧れて、家族やおばあさんの元を離れる。おばあさんの飼っているほかの動物たちにくっついて、冒険をするのだが、猫以外もなかなか楽じゃないことを知る。よくある自分さがしの旅物語仕立てなのだが、おばあさんの敷地内だけに限られているところが、そこはかとなく面白い。それでもぴっちにとっては、大冒険で、自分を見つけるのは大事(おおごと)なのだ。

少々無茶するぴっちを取り巻くおばあさんとほかの動物たちの視線が温かく、一服の清涼剤としても楽しめる。1954年の初版のままと思われる本文の組み方(外来語もかな表記)も古くささよりむしろ希少価値を思わせ、懐かしさと温かさを覚える作品だ。(文:かわら)