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風の男
白洲次郎 |
青柳恵介/著 |
新潮社
(新潮文庫) |
「石原裕次郎の兄です」とは、東京都知事石原慎太郎が立候補の記者会見での自己紹介のときの科白(セリフ)だが、その言い方にならえば白洲次郎は「白洲正子の夫」である。
白洲次郎と言ったってどれだけの人が知っているか。私と同年輩の人ならばその昔新聞紙上で名前を目にしたことがあるに違いないが、どういう人なのかは、おそらく不明瞭にちがいない。新聞紙上に当時の吉田茂首相の懐刀として裏方の仕事をしている、うさんくさい印象しか持っていなかった。
しかし戦後も50年以上経つと、ときに埋もれていた事実が掘り起こされることがある。白洲次郎について言えば、晩年の白洲正子の名声につれて、その夫である白洲次郎に思い至るという経路をたどったようである。とすれば冒頭の紹介もあながち的外れではないかもしれぬ。
ともかく、今度はうさんくさいどころか極めつきのカッコいい男として再登場してきた。たしかにカッコいい。背が高くて、ハンサム、それにアメリカ人に「白洲さんの英語は大変立派な英語ですね」と言われたら「あなたももう少し勉強すれば立派な英語になりますよ」と答えた程の英語力と度胸を持った男だから。
この本は白洲正子公認の白洲次郎語録だそうだが、短いが敗戦直後のみじめな日本の状況の中にあって、吉田茂らと共に、GHQを向こうにまわして一歩もヒケをとらずに渡り合った男の一生を鮮やかに描いている。
その一生は、われわれ庶民のそれとはちがう。子供の頃から物的にまことに恵まれた環境で育ち、ケンブリッジに学び、遊んだ。階級格差の小さい日本にあっても格別に恵まれた人生を歩んでいるが、その人柄は小気味よく敗戦後の活躍とあいまって、カッコいい日本人の1人として、その人生を知る喜びをこの本から読みとることができるのである。(文:宮) |
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