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草原の記 |
司馬遼太郎/著 |
新潮社
(新潮文庫) |
司馬遼太郎は外国語学校でモンゴル語を学んだ人である。戦争で戦車隊に入れられ、満州で数年間過ごした。
「草原の記」は『街道をゆく』シリーズの中で「モンゴル紀行」(朝日文庫)と並んで、司馬さんの年季の入ったモンゴルへの思いのたけを綴った本である。決して激さず、むしろ淡々と書いているが、繊細な気持ちの動きがじんわりと伝わってくる。2つの本には同じ人が登場する。ブリヤート・モンゴルの村に生まれたツェベクマさんという女性は間違いなく2書の主役である。
この人の波瀾に富んだ生涯がたどられているが、この人のことに限らず、筆は自在に飛び回る。ジンギス・ハーンから、2代目の皇帝のオゴタイ・ハーン、世界で2番目の社会主義国として生まれたモンゴル人民共和国建設にかかわった人々、もちろん日本軍部のさまざまな動きまで、場所と時間を自由に行き来して、モンゴルの人々の生き方を描き出している。本書に描かれたモンゴル人の生き方、考え方は、現代のわれわれの社会のそれとは全くちがったものだが、いまそれはどうなっているのかとたずねたくなる。情報があふれている今日の世界で、モンゴル人の昔ながらの生き方は、残っているのか。いまでも包(ゲル)での生活こそが人々の望む生活なのだろうか。
現代のモンゴル人というと、私は相撲取りの旭鷲山を思い浮かべる。この人の顔を私はいかにもモンゴル人の顔らしいと思うだけでなく、絵で見たジンギス・ハーンの顔にもよく似ている。本書の解説で山崎正和さんが言っているように「モンゴルは著者にとって年来の心のふるさとである。それに満腔の感情移入を示して書かれたこの本は、著者のもっとも底深い歴史観を洩らしている、と見ることができる。」(文:宮) |
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