「知識なんか要らないよ、ふらっと友だちに会う感覚で絵に触れようよ」というスタイルを提唱するこの絵本、全10巻シリーズで、1冊につき1人の画家とその作品が紹介される。
たとえば、ゴッホ。頁を開くとうずまきが見開きにごろごろ転がっている。まわりには手書きの文字で‘うずまきぐるぐる’とある。これはなんだろうと思ったら、ゴッホの「星月夜」という作品のうずまく空の切り抜きだった。作者はゴッホの作品がうずまくようなタッチで描かれていることに注目し、その後も太陽がぐるぐる、ランプの灯りがぐるぐる、とつづく。ゴッホの作品は、どこかどんより薄暗く、気持ちのいい絵に感じられないと単一的にとらえていたが、‘うずまきぐるぐる’なんてやられると、おもしろいものに見えてきてしまうのが不思議だ。ほかにも、ピカソ、ルノアール、モネ。名画と呼ばれる数々が、本のなかで「あっちむいてほいっ」をしたり、「おいかけっこ」をする。絵の見どころをおもしろい角度からとらえて、わかりやすく解説する試みによって、絵画との距離が一気にちぢまるのである。これなら、子どももとっつきやすく、大人でも十分楽しめる。
さて、シリーズに登場する画家の中に私の好きなルソーがいた。そこはかとないユーモアと幻想的な雰囲気にあふれた世界。趣味で絵を描き続けたルソーは、おじいちゃんになってからようやくプロの画家になった。その気負いのない、描きたいものを描きたいままに自由に筆を走らせたスタイル。まさに宝ものがたくさん隠れているような絵。絵本でも、夢の宝さがしと題して、ルソーの不思議な世界を探索する。ルソーもきっと楽しみながら絵を描いたのだろうが、この作者も楽しそうに、歌うような文章で解説を展開している。
読んでるこっちまで楽しく絵の世界に浸れるのだ。
巻末には、画家の生い立ちや作品の背景にも簡単に触れていて、「知る」しくみにもなっている。絵の多角的なとらえかた、遊んで学ぶ方法をこの絵本は教えてくれる。子どもにとっては感性を養う材料に、大人にとっても肩のこらない美術書として楽しめる。好きな絵がますます好きになったり、知らなかった絵と出会うことも、そして、苦手だった絵がおもしろく感じられるのがこの絵本の魅力である。(文:かわら) |