「この本おもしろかったよ!」
【紹介した書籍に興味をお持ちの方へ】 この本は朔北社の出版物ではありませんので、出版状況等に関しましては、お近くの書店、あるいは各出版社にお問い合わせ下さい。
 貧乏だけど幸せ

貧乏だけど幸せ
 昭和25年〜35年の実写記録

コロナ・ブックス編集部/編
荒俣宏/解説
平凡社

この本は昭和35年に出た『われら日本人』という全5巻の本を1冊に再編集した、記録写真集である。この本が出た昭和35年といえば私は高校生で、当時の様子は鮮明に憶えている。「もはや戦後ではない」と言われたのが昭和31年(経済白書の言葉)で、それから数年を経ており昭和35年といえば日米安保条約制定をめぐって激しい対立が渦を巻いていた時代であった。

昭和25年から35年までの10年間が対象となっているから戦争直後の荒れ果てた景色から、私の高校時代の記憶にあるすっかり落ち着いた社会までが収録されている。いずれにせよ、現代日本の景色とは全く違う世界が写されている。日本は昭和35年前後から経済の高度成長軌道に乗り、大きく変貌していくから、その直前の姿が写されているわけであり、視覚的にはむしろ、戦前の社会からの継続性の方を強く印象づけられる。

最近、昭和時代それも戦前を中心とした昭和時代についての回顧が出版物の中にも出てきているが、この本はそれらに連なる系統の本であり、写真集ということで、独自の意味を持ったものになっている。
人の顔がとりわけ今と違っている。何しろ、まず貧しい生活があってそれが表情に出ている。解説で、貧しいがひたむきに生きていた人々の幸福ということを言っているが、同感できるところがある。日常の何気ない情景が大半で人々の思いが、そこから読みとれる写真が多い。

経済の力は恐ろしい。10年前の中国は多分この本の写真と多くの共通点を持っていただろうが、最近テレビに登場する中国の風景、とくに都市の景色や人々の服装などは、現代の日本人にはるかに近くなっている。今、すさまじい勢いで、経済発展を遂げている。
中国の現状を反映しているわけで、昭和35年頃までの日本も、その後の高度成長のために史上かつてないような豊かな社会へ変貌していった。そして、そのことが日本人の幸福を増大したのかどうか、解説が言っているようにはなはだ疑問なのである。

社会のすみっこに生きていたにせよ戦後の社会をほぼ全て記憶に持っている私の世代にとっては、本書の写真を見ていると実にいろいろなことを考えさせられる。単純な懐かしさもあるし、先程触れたような幸福の問題まで、ページを繰るごとにあとからあとからさまざまな思いがわき出てくる。(文:宮)