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日本再軍備

日本再軍備 米軍事顧問団幕僚長の記録

フランク・コワルスキー/著
中央公論新社
(中公文庫)

書名の通り、本書は日本の再軍備が始まった当時の米軍当事者の記録である。日本の再軍備は警察予備隊という、事実上の軍事組織の編成から始まった。警察予備隊という名前に明らかな通り、軍隊ではなく警察の特別部隊をよそおって組織された。

発足当初において、日本政府とGHQ(マッカーサーと米軍スタッフ)は、警察予備隊が日本陸軍の再建であることを、充分認識していたことが明らかである。まだ思考されて間もない日本国憲法第9条の規定に明らかに違反する行為であることも皆充分知っていた。このことの問題性を、著者コワルスキーは明解に指摘・批判している。

日本政治の当事者たる吉田首相の責任はもとより、憲法第9条の起草者であるマッカーサー米軍首脳が、今度は第9章に違反する再軍備を日本に押しつけた責任を指摘している。

コワルスキー氏が言うように、マッカーサーが吉田首相と、当時の野党指導者を呼んで、当事の状況の下で再軍備の必要なことと、それに伴って憲法の改正を求めていれば、その後の憲法問題、自衛隊問題は別の道をたどったに違いない。それは決して楽々とできることではなかったであろうが、まだ占領下にあった日本の政治状況を考えると、充分実行可能なことだったと考えられる。

この本は日本の再軍備の当事者として憲法をめぐる問題だけでなく、当事の旧軍人たちの活動や、警察予備隊の創設にあたった林敬三(当事宮内庁次官で旧内務官僚)初代総覧を始め日本側当事者の言動を生々しく記録している。

文庫版解説者は、「この本が初版出版当時(昭和44年サイマル出版会)あまり反響を呼ばなかったし、内容について半信半疑の読者が少なくなかったし、今日もそう言う傾向は拭えない」と言っている。

しかし、戦後54年を経た今日の頭で読み直してみると、単に資料的価値が高まったと言うぐらいではなく、目下の大きな政治問題でもある自衛隊の対外活動ひとつをとりあげてみても、憲法と自衛隊の問題を警察予備隊の創設のいきさつから始め冷静に整理・分析する必要性が大きい今、本書の内容はますます価値を増していると言うべきであろう。(文:宮)