「この本おもしろかったよ!」
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あなたみたいな明治の女(ひと)

あなたみたいな明治の女

群ようこ/著
朝日新聞社

男と女、生まれ変わったらどちらがいいか。こうした問いをかけられると答えに詰まる。男なら、危険を顧みずいろんな世界に飛び込める。女はその点限界がある。
でも女なら男ほど社会のしがらみにとらわれることがない。
しかし、性は自分で選べるものではないから、たいていの場合与えられたものに満足するほかはない。
「男なら……女なら……」と不満や希求の思いはつきないが、あくまでも性別は条件にすぎない。作者もあとがきで同じことを書いているが、重要なのは性別があるうえで人としてどう生きるかなのではないか。

この本では、人の生き方に興味をもった作者が、明治時代に生きた8人の女性にスポットをあて、紹介している。

この明治、外来文化や情報が日本に大量に飛び込み、人々の意識も生活も大きく変化した時代である。現代のように世界中にネットワークがはられているわけではなく、互いの状況が把握できる状態ではない。一方的に情報が入り込み、それをどう搾取するかに人々は追われていた時代でもある。そんな強い向かい風の中で、この8人の女性たちは、果敢に立ち向かう者もいれば、風の流れを利用して自己の発展に努める者もいる。だが、誰一人として風に打ちのめされる者はいない。
8通りの生き方はそれぞれ、まず自分がどう在りたいかを考え、次に人とどう共存するかに努め、あきらめず、くじけることなく最後には「自分の人生」に納得していくのである。
100年前のこうした女性の生きる姿勢を読んで、自分に置き換えると、これが非常に参考になる。生活様式、世情は違っても、この精神的な姿勢が100年そこらで崩れることはない。親の背中を見るような身近な感覚を覚える。それもそのはず、今自分たちが在るのは、この時代に生きた人たち在ってのもの。「生き方の姿勢」は、潜在意識として受け継がれているのにちがいない。
先をみるだけでなく、振り返って先人たちの歩んだ道をなぞってみると自分の行く道が見えてくる。人生のサイクルはこうやって、延々とくりかえされているのだな(いくのかな)と感じる。
作者もきっとそんな想いでこの8人の女性たちの生き様を追ったのにちがいない。
というのも、8人を通して、最終的に作者「群ようこ」という一人の女性が浮かんでくる。またこの人も女として、今の時代をどう生きようか模索しているのだなと感じられる。

男性の多くが古くから、社会の表舞台で生きられた反面、女性が対等な立場につくのに長い時を要し、それは現在もまだ進行中である。
男も女もなく、性を越えたところに人の生き方があるというのはもっともだが、時代性が絡んだときに個々の性別は大きな意味や世間に対して影響力を持つ。
女性のほうが時代風に立ち向かってきた歴史が深く長い分、その生き方に変化に富んだ面白みがあるのは確かかもしれない。
時代、事件、事柄ごとに女性をテーマにした本が数多いのも人々の興味を惹く要素が強いためだろう。

男か女かと問われれば、やはり答えに詰まるが、先人たちの生き方を参考にすれば、どちらの生き方も楽しめるのでは、と無難な答えに辿りつく。

平成の女(ひと)たちも100年先から振り返ったとき、どう見られるのか。
参考になるよう毅然として生きなくては、とちょっと背伸びしてみたくなった。
100年後……さて、そのころに男女の性別があるのやら。人々は新しい性の生き方を模索しているのかも。(文:かわら)