正岡子規は37歳で病没するが、晩年の寝たきりの数年間、母親八重と妹律の看病の下に暮らした。
本書の主要登場人物の一人は、母親八重の甥で律の養子になり正岡家を継いだ正岡忠三郎である。もう一人は忠三郎の学生時代の友人で、日本共産党の幹部だった雨沢隆二である。司馬さんは雨沢隆二の友人でありその関係で正岡忠三郎からその周辺の正岡子規ゆかりの人々と交遊を深めていくことになった。
正岡子規という文学史上の巨人の家族の、子規没後の生き方を描いているが、事実についての興味を満たすだけでなく生き方についての著者の節度を持した共感が気持ちよく読める本である。
「坂の上の雲」の続編というべき本だが、これは通常の小説ではない(TRCでは小説に分類しているが)。登場人物が司馬さんと親しくつきあっていた人々だけに、その筆致はなまなましくもあり精彩がある。司馬さんの他の歴史小説とは一味ちがう味わいである。(文:宮) |