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ノドン強奪

ノドン強奪

トム・クランシー スティーヴ・ピチェニック/著

伏見威蕃/訳

新潮社
(新潮文庫)

「レッド・オクトーバーを追え」で一躍世界的ベストセラー作家になったトム・クランシーの新しいオプ・センター・シリーズの第1作目である。原作はすでに本書を含めて5冊まで出版されている。

このシリーズは、トム・クランシーとスティーヴ・ピチェニックの共著だが、構成は時間を追って、重層的に事件を描いていく、クランシーの小説でおなじみのものである。この手法はうまく仕上がっていないと印象が散漫になり、時間を忘れて読みふけるという楽しみが味わえなくなる。この本はその点では普通の出来栄えか。最後はすべてうまく解決されるので、訳著が解説で言っているように「平和を好む筆致が感じられる」が、人物の描き方がやや類型的であり、軍事サスペンスとしては多少物足りない。小説の筋書きは、韓国軍の狂信的な軍人の北朝鮮弾道ミサイルを利用した戦争計画をつきとめてこれを阻止しようとする、アメリカの危機管理組織(オプ・センターと呼ばれている)の活動を中心にまとめられている。ミサイルの標的が日本であるなど、昨年起きた北朝鮮の弾道ミサイル発射事件を先取りしたような軍事サスペンスで、国際関係に対する著者らの並々ならぬセンスを認めざるを得ない。このセンスの良さは、「レッド・オクトーバーを追え」以来のトム・クランシーの小説の特色だと思う。

トム・クランシーの小説の面白さの一つは、言うまでもなく最新の技術を駆使した情報、軍隊に関する知識が読みとれることだろう。この小説でも偵察衛星をめぐるトラブルとその解決が、物語の中で重要な位置を占めており、さらに偵察衛星を使って事件の解決が図られることになる。このあたり、たまたま現在日本で偵察衛星の打ち上げや国産がマスコミをにぎわしている折から、本書は一層興味津々の読み物になった。(文:宮)