「この本おもしろかったよ!」
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すぐそこの遠い場所

すぐそこの遠い場所

クラフト・エヴィング商會/著
晶文社

これは、ここから遠くはなれたところにある世界"アゾット"の事典です。"アゾット"という言葉の意味するところ、"すべての最初であり、また最後であるもの"というのにふさわしく、この世界は実に不思議に満ちています。ざっと目次を見ただけでも、「哲学サーカス団」、「6Hの詩人」、「死神としても床屋」、「忘却事象閲覧塔」等々、どれもひとくせありそう。そして、どれももっともらしい(失礼)解説がついていて、「ふむふむ、なるほど」と、思わずうなづいてしまうのです。

 こういうものが生まれる感覚はなんていうんでしょう? 想像力というとちょっとかたいし、イマジネーションというとそれっぽいけど、カタカナにしただけだし。遊び心といえばしっくりくるでしょうか。 
そう、この本は遊び心に満ちているのです。
私はこういった架空の世界の見聞記や博物誌のたぐい大好きで、他にも例をあげると「スギャーマ博士のノーダリッチ島動物図鑑」や「イバラード博物誌」、「平行植物」など、どれもすぐ手にとれる場所にいつも置いておきたい本です。

 これらの世界の案内人たちにうながされてページをめくると、しばらく彼らの世界の住人になった気になれます。巨人の流した涙のお酒を飲み、夕方にだけ走る小さな電車をホームで待ち……。でも、そこはあくまでも彼らの小宇宙。そう長くはいられないし、そうしょっちゅう出入りできません。もしそうしたいのなら、まず、自分のなかの小宇宙の存在に気づくこと。その世界のささやきに耳をかたむけること。すると、もうひとつの世界の扉が開き、そのむこうにはさらに幾つもの他の小宇宙につづく扉が開いているのです。そのカギは、やっぱり遊び心なんですよね。(文:京)